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第629話
何時も通り夕食もよく食べた三条は、目の前のケーキににこにことしていた。
飯も美味しそうに食べるが甘いものは殊更しあわせそうだ。
長岡はケーキを頬張る三条に目を細める。
あたたかく愛おしむ視線は以前よりずっとやわらかくなった。
それに気付いた三条はフォークを握る手を止めた。
「どうかしましたか。」
「いや。
一口食うか?」
フォークにのったチーズタルトが三条の目の前に差し出される。
レモンの乗った、いかにも爽やかそうなそれはチョコレートで甘くなった口に入れたらどんなに爽快だろう。
ちらりと恋人を伺うと、んと口元に運ばれてきた。
「餌付け。」
「懐いちゃいますよ。」
「こんな事で懐いてくれるならいくらだって食わせるよ。」
ぱくっと口に入れると柑橘の爽やかな風味が口に残るチョコレートと相まって頬が溶けてしまいそうだ。
美味しい物を食べて、だらしない顔になってしまうのはしかたがない。
「美味しいです。
ありがとうござい…」
「本当だ。
うめぇ。」
顔に影が重なりすぐに離れていった。
ふわっと空気に混じる恋人のにおいに三条の顔は赤くなる。
「なに…っ」
「美味そうな顔するから。
味見?」
「味見って…」
「美味かった。
もう一口貰っちゃおっかな。」
近付いてくる整った顔に肩を震わせると、触れるギリギリで止まった。
反射的に引いてしまった顎を指先で上げられドキッと心臓が跳ねる。
「顔真っ赤。
もう一口貰っても良い?」
真っ直ぐに目を覗かれ、頭の中で見抜かれてしまいそう。
目の前の恋人の事でいっぱいな頭の中を見透かされたら、引かれるだろうか。
それとも、嬉しいと笑うだろうか。
「あ、の…、俺も…もう一口、ください」
「はは、かわい。
ケーキだけで良いのか?」
「正宗さんも、欲しい、です」
「うん。
じゃあ、早く食って一緒に風呂入ろうな。
んで、沢山しようか。
な、遥登。」
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