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第638話
行っちゃった…
部屋に戻ると簡単な朝食に使った皿とマグカップを洗い片付ける。
数個の洗い物はあっという間に終わり、すぐに手持ち無沙汰になってしまった。
少し台所で作業をするも此方もすぐにおわってしまう。
本でも読んでようかと本棚の前にしゃがむと、綺麗にラベリングされたファイルが増えている。
はじめてこのファイルを見た時は、教師としての長岡と人間としての長岡は違うと思ったがそんな事はなかった。
どちらの長岡も自分の様な子供にも真っ直ぐに向き合ってくれる。
真面目で優しくて、先生としても人としても尊敬している。
ファイルの横には付箋が沢山張られた参考書の類い。
まさに長岡の人となりを表している。
三条はその上の段から耽美小説を手にとると、約束した通りベッドへと戻っていった。
主のいないベッドは広く不思議な感覚で、隅で小さくなる。
ページを捲る度に思い出されるこの1年。
沢山笑った顔をみた。
意地悪げに笑ったり、格好良く笑ったり。
子供みたいに笑った顔も。
フォルダの奥に貯まる写真よりやっぱり目の前で笑った顔が見たい。
正宗さん、早く帰って来ないかな…
ぽすっと布団に顔を埋めると大好きなにおいに包まれる。
あたたかな部屋で寝転がりながら本を捲っていると、睡魔が誘ってきた。
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