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第648話
控えめに柏手を打って頭を下げる。
今年の2年参りは優登が起きていたため同じ神社にこそいたが、言葉を交わす事も出来なかった。
マスクで顔を隠しても目立つ身長に優登にバレるのではないかとヒヤヒヤしたが、そんな事は何処吹く風。
バレるどころか途中から降り始めた雨に殆どの参拝客は下を向いていた。
それでも最低限の距離を保ち会話も手のひらの中でだけだった。
だけど今日は違う。
日付も代わりそうな深夜、初詣を兼ねて長岡の部屋の近くの神社にお参りに長岡と2人で来ている。
三条が行く神社よりも小さいが手入れの行き届いた境内はとても綺麗で、絵馬が風にカランと揺れた。
冬の夜独特のピンと張り詰めた空気の中、手を合わせ願い事をする。
また長岡先生が担任が良いです
それと、正宗さんの願い事が叶いますように
そっと目を開けるとぼんやりと辺りを照らす外灯に埃がキラキラと舞っている。
隣を見ると未だに手を合わせ目を閉じている長岡の横顔。
横顔まで綺麗だなんて羨ましいよな
顎のラインがシャープで、だけど男っぽくて…
骨格まで綺麗なんだよ
ぽけっと眺めていると目蓋があがり此方を向いた。
「ん、悪い。
待たせたな。
願い事ちゃんとしたか?」
「はい。
しっかりしました。
正宗さんの願い事叶うとですね。」
長岡の願いは、また三条のクラスの担任を受け持てますように。
それから、A組の受験合格と
もうひとつ。
「遥登のも叶うと良いな。
御神籤引くか。」
「はいっ。」
日中ならお守りやお札を売っているであろう社務所の隅に置かれている木箱に小銭を入れると中から1枚引く。
「それにしても、正月早々泊まりなんて良いのか。
親御さん心配してねぇの。」
「ちゃんと泊まるって話してから来てますよ。
三者面談で母親が言った通り、家は基本自由なので連絡さえすれば大丈夫です。
正宗さんこそ、帰らなくて良いんですか?」
「そのうち帰る。
蓬と柏に飯買ってかねぇとだしな。
あ、大吉。」
長岡の実家の愛猫の可愛らしさを思い出す。
ごろごろと長岡に喉を鳴らしていたが、元は野良猫だったらしい。
少し羨ましいと思ったのは絶対に秘密だ。
三条も御神籤を解く。
「中吉。」
「学問は安心して良いし、争事は…思いのままに勝つんだな。
うん。
他はともかく受験あるし悪くねぇな。」
顔を寄せ三条の御神籤を覗き込む長岡はぽんと三条の頭を撫でた。
屈んでいる為、すぐ隣に長岡の顔がある。
色恋に耽るなだってよと笑いながらまた数度頭を撫でられた。
恋人に耽るのは許されるだろうか。
長岡を見上げると目が合った。
「ん?
どうした。」
「いえ、なんでもないです。」
「そうか。
じゃ、少し寄り道して帰るか。」
「寄り道?」
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