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第651話

「相川先生…っ!」 「こ、古志くん」 「探しました。 お茶買ってくる時間も待てないんですか。」 「ごみ捨てに…、長岡先生が持ってくれて、あの…」 後ろから追いかけてきたのは3年の古志薫だった。 明るい髪色に着崩した制服と一見チャラチャラして見えるが成績は上位で、相川が顧問の生物部の部長もこなしている。 授業を受け持っているが見た目とは真逆に、根は真面目な生徒。 長岡の名前を聞くと古志は振り返った。 まるで、長岡の姿が見えてない様なその行動が面白い。 「俺が手伝います。」 見た目や授業を受け持った印象は猫だが、キリッとした目はまるで番犬。 それも威嚇している。 遥登とはまた違ったタイプだよな 「そうか。 じゃあ、はい。」 「どーも。」 手渡すとその重さに一瞬眉を潜めた。 しかし、すぐに長岡に向き合うと失礼しますと相川を隣に歩きはじめる。 自分の事など興味すらないといった態度はむしろ清々しい程だ。 「大体ごみ捨てなら俺が手伝ったのに。 来るまで待てなかったんですか。」 「すみません…でも、ごみ捨て位古志くんが帰ってくる迄に終わるかなって…思いまして…」 どこか楽しそうな2人の声を背に中道を通り庭を横切る。 太陽光を反射して眩しい白に汚れのない笑顔が頭を過った。 遥登の顔見てぇな あの猫に似た番犬とは違い破顔した顔も穏やかで、主人に愛され自らも愛す犬の様な恋人。 背ばっかり大きいがまだ子供のあどけなさを残したあの子は自分の特別だ。 ゴミを捨てていると、ドサッっと何処かで雪が落ちる音がした。

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