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第653話
今年最初の三連休も変わらず長岡の部屋で過ごしていた。
外泊したばかりだったが、長岡から来ねぇのかと言われその言葉に甘えている。
出迎えてくれた長岡に手土産に持ってきたどら焼きを渡すと早速10時のおやつにしようかと微笑んだ。
「コーヒーよりお茶が良いよな。」
「俺がします。」
「ありがと。
もう冬休みも終わるな。
楽しかったか?」
「はい。
なんだかんだ正宗さんの部屋に入り浸ってしまってすみませんでした。
正宗さんはゆっくり出来ましたか。」
「当たり前だろ。」
ケルトに水を入れていると、肉付きの悪い頬を両の手で捕まれ顔を上げさせられた。
なんだか顔の距離が近くなったような気がする。
以前はもっと見上げていた気がするがどうだっただろう。
背伸びをしてみると以前よりも楽に顔に近付けた。
近い
簡単に近付ける
「どうした。
キスしたいのか?」
「違いま…」
踵を付けると、頬を捕まれまま口を長岡のそれで塞がれた。
言葉を発する途中だった口から侵入してきた舌が三条の舌をなぞる。
立ったまま上を向いてのキスに長岡の唾液が流れ込んできた。
「ん…、ぅ…ン」
こくんと嚥下するとより激しいキスへと変わる。
くらくらするような扇情的なキスに三条は長岡の服を掴んできつく目を閉じた。
けれど、視界がシャットダウンされた分聴覚が働いて口の中のいやらしい水音が頭の中に響く。
くる、し…
呼吸も苦しくなってきた頃、ちゅぅっと舌を吸われ鼻にかかった声を上げてしまった。
「ぷは…っ、」
その瞬間、カクンと下半身から力が抜け身体を支えられなくなった。
シンクに頭をぶつけそうになるギリギリで長岡が支えてくれたが、脚が言うことを訊かずその場に座り込んでしまう。
嘘…
腰…砕けた…
信じられないと恐る恐る目の前の恋人を見上げると彼もまた驚いている。
「大丈夫か。
頭打ってねぇか。
腰とか背中は」
「大丈夫です…。
どこも打ってません。」
後頭部を撫で背中を撫で、たんこぶがないのを確認されると上から小さく安堵の溜め息が聴こえる。
「あの…うわっ!?」
支えてくれたお礼と暫くこのままでも良いかと恋人を見上げるといきなり膝裏に腕を通され横抱きにされた。
自分の身長より高くなる視界に大人しくしがみつく他ない。
うわっ、高い…
こわい…っ
恥ずかしい…っ
「正月太りって言葉知ってるか。
もう少し太れ。
軽すぎんだよ。」
「歩けますから…っ、こわい…、高い…」
思わず長岡のセーターの襟刳りを握ると数日前に着けたキスマークが着いていた。
三条はたまらずすぐに手を離す。
そのまま抱き抱えられると先刻来た道を帰っていく。
連れていかれた先は浴室。
なんでと、恋人を見上げるとすっかりスイッチの入った顔をしていた。
やばい…
この流れは絶対にやばい…
「キスだけでそんな気持ちくなってくれるなんてな。
なんで教えてくんなかったんだ。」
「これは…た、たまたまっ」
「へぇ?」
にっこりと笑う長岡に下っ腹が疼く。
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