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第668話

楽しい時間は何時もあっという間に過ぎ去っていく。 ずっと一緒に居た時間は、ほんの一瞬だったのかと何時も思う。 特に泊まりの日は別れるのが名残惜しくてたまらない。 自宅に近い暗がりに車を停めてもらい後部座席からリュックを取る。 「ありがとうございました。」 「ん、どういたしまして。 忘れもんねぇか。」 「大丈夫だと思い…おわっ」 ガコンとリクライニングを倒され夜だと言うのに大きな声を出してしまった。 暗闇にぼんやり浮かぶ長岡の顔が近付いてくる。 反射的にきゅっと目を瞑ると、耳元で長岡の声がした。 「毎日会えんのは嬉しいけど、三条くんとやらしー事が出来なくなるのは寂しいな」 恐る恐る目を開けると楽しそうな長岡の声にからかわれたのだと知る。 「その呼び方の時はしないじゃないですか…」 「たまにはすんだろ。」 ちゅっと顎にキスされて慌てて肩を掴む。 いくらリクライニングを倒した車内といっても覗かれでもしたら丸見えだ。 部屋着にコートを羽織っただけのラフな格好だが、どれをとっても長岡によく似合っている。 着丈もデザインも、それこそ丈の足りなさすらデザインに見えるの程に格好良い。 意識すればする程格好良さに拒否出来なくなってしまうが、明日はもう学校に行かなければならない。 ここで流される訳にはいかないと理性がブレーキをかける。 どうしようこんな顔で帰れない… 「やらしー顔して帰す訳にいかねぇからおしまい。 俺も我慢するから、またおいで。」 「…はい」 長岡もそれを解っているからか優しく髪を撫で、起こしてくれた。 乱れた髪を直しながら一瞥するとハンドルに腕をかけこちらを見ている長岡と目が合い、またひとつ体温が上がる。 「何を見ているんですか…」 「別に?」 暗がりに車を停めてるといっても、田舎じゃ見知らぬ車は不審に思われる。 あまり激しい事は出来ない。 だけど自分ばかりがからかわれているのは悔しい。 なにか… あ、そうだ 長岡の手を掴むとその平に口を付け、さらにその部分を長岡の口に押し付ける。 可愛らしい間接キスに長岡はふわりと空気を和らげ花を咲かせた。 「また、明日…学校で」 「また明日な。」 優しく表情を緩める長岡にもう一度頭を下げ車から降りると、長岡は口をパクパクと動かしてから手を振る。 唇を読んだ三条は目をぱちくりさせると顔を真っ赤にし、今日何回目になるのか再度頭を下げて角を曲がって暗闇に消えていった。

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