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第674話
特色選抜の願書が届く頃には3学年は高校生活最後のテストを終え自由登校になった。
毎年の事だが、がらんとした3年教室になんとなくの寂しさを感じる。
A組もあと1年か
早ぇな
ついこの間入学してきたと思ったらもう2年後期も終わんのかよ
キーボードを叩きながら頭の片隅でぼんやりと思う事はクラスの事。
楽しそうな笑顔がチラチラと浮かび、改めて自分の中心にいるあの生徒の大きさに気付く。
身近であの笑顔が見れるのもあと1年。
これから寂しいようで嬉しいような1年が待っているのかと考えていると、隣から声を掛けられた。
「長岡先生、今年も沢山白菜が採れたんですけどもらってくれますか。」
「良いんですか。
亀田先生の育てられる白菜美味しくて鍋にするとすぐ食べきっちゃいますよ。」
「はは、お世辞が上手ですね。
実は車に積んできてるので、後でお渡ししますね。」
インフルエンザ予防のマスクをしていても柔和な笑顔がわかる先輩につられて長岡も表情を和らげる。
威張る事なく自分の様な若輩者にも優しく指導してくれて尊敬する大先輩。
もうすぐ定年なのは寂しいが、この方が受け持った生徒が子供を授かり、その子に教えるかも知れない。
生徒が教師を志し、またその生徒に伝わえるかも知れない。
樹系図の様に広がり例え亀田が引退しても根を張り続けていったらと考えると、教職とはすごい職業なのかも知れない。
事務作業をこなす横顔は近所のおじいちゃんといった親近感があるのにとても敵う事が出来ない。
「それにしても、長岡先生のお話を聞いてお鍋食べたくなっちゃいました。
明日の晩御飯はお鍋にしてもらいましょうかね。」
「毎日寒いですからね。
僕は今晩鍋にします。」
「今晩とは随分と羨ましい。」
なんて事ない日常会話をしながら、打ち込み終わったテスト問題に誤字脱字がないか確認をしデータを保存した。
3連休遥登泊まりに来るし休みも鍋にすっかな
シメはうどんかカレーかどっちが良いか迷うな
あー、あとたまごと牛乳買っとかねぇと
あの笑顔と囲んで食べる鍋はどんなに美味しいか思い出し一気に3連休が待ち遠しくなる。
早くあの名前を呼びたい。
抱き締めたい。
緩みそうになる表情筋を引き締め教師の仮面をしっかりと貼り付け仕事に向かいながら、頭の中ではそんな事ばかりを考えていた。
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