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第682話

ドライヤーの風音が会話を遮る。 沈黙も苦痛じゃない。 そもそも一言も話さずに各々本を読んだりして2時間経っていたなんて事も2人にはザラだった。 頭皮を揉み込みマッサージするように髪を乾かされ気持ち良さに目を閉じる。 力強くだけど優しく本人のような指使いは心地よく、髪を乾かして貰うなんて申し訳ないと思う反面三条の好きな時間のひとつ。 「こんなもんか。 うし、おわり。」 「ありがとうございました。」 「ん。 どういたしまして。」 セックスが終わってからも甘やかしてくる長岡はドライヤーを片付けながら髪を弄くりまわしてくる。 正宗さんの癖 自分の髪は触らないのに でも、冷たくて大きな手に触られるの好きだし嬉しい 「どうした。」 「え? 何がですか。」 「可愛い顔してじっと顔見て。」 髪を撫でていた手がするりと頬を撫で下ろし、綺麗な顔が近付いてきた。 ふわっとボディーソープのかおりに長岡のにおいが混じる 「もしかしてヤり足りなかった?」 「!?」 吐息の多い色っぽい声で悪戯っぽく耳元で囁かれ、思わず体温が上がる。 耳を手で覆い隠し長岡は見上げるとくつくつと笑いを堪えていた。 「やっぱり遥登は良いな。 からかいがいがある。」 大好きな人の大好きな満面の笑み。 トクン、トクン、と心臓まで好きだと言っている。 「ま、正宗さん…っ」 「ん? どうした。」 「すごい、好きですっ」 視線を合わせてくれる長岡に三条は懸命に思いを言葉にする。 やっと口に出来た言葉は小学生でも言わないようなチープなもの。 それでも、精一杯の気持ちを込めた。 あたたかな春の窓辺 真夏に食べるスイカ 秋の山の色 真冬に炬燵で食べるアイス 半熟とろとろの目玉焼き 本のインクのにおい 友達と過ごす昼休み テスト明けの昼飯 一緒に食べるカレー 好きなもの。 その中で1番大切にしたい好きは、今目の前にいる恋人。 「俺も、遥登がすげぇ好き。」 恥ずかしくて長岡のシャツに顔を埋めると同じボディーソープのにおいが嬉しくて擽ったくて、照れ臭い。 優しく抱き締め返してくれる長岡にもう1度好きだと伝えると腕に力が入った。 一体どれだけ自分を甘やかすのか。 すりっと額を擦り付けると嬉しそうな声が降ってきた。 「大丈夫。 ちゃんと伝わってる。 遥登わかりやすいからな。」 「本当、ですか…?」 「本当。 俺の事すげぇ好きって顔してる。」 「…っ」 「だから、何時も通りで大丈夫だ。」 良かった 正宗さんが正宗さんで、本当に良かった

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