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第685話
同じ部屋に帰るという行為でも、その部屋に電気が点いてるだけでこんなにも足取りが軽くなるのだから不思議だ。
部屋まで階段を駆け上がり鍵を開けると、あたたかな空気と遥登が待っていた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
わざわざ寒い廊下に出てきて出迎えてくもらえる律儀な恋人に頬が緩む。
心も身体もぽかぽかする。
恋人の笑顔はどれだけ自分の力になっているか。
季節を考えても今日の逢い引きはなんとなくわかる。
堅苦しいジャケットを脱ぎソファに放り投げワイシャツ姿になると手洗いうがいを済ませた。
風邪は勿論インフルエンザなんてひいてしまったら笑い事ではない。
背中に突き刺さる視線に振り返るとばちっと視線が絡んだ。
深い赤色のセーターが三条の肌をより綺麗に魅せている。
紺色のジャケットがないだけでこんなに印象が違うのか、それともセーターで顔色がよく見えるせいか、なんだか色っぽい。
すっかり定位置になったそこから小さな紙袋を手に三条がやって来た。
「これ、バレンタインのチョコレートです。
去年と同じものなんですが…」
「ありがと。
開けても良いか?」
こくんと頷いたのと殆んど同時に箱を開けると1年前と同じチョコレートが甘いかおりと共に詰まっていた。
口に運ぶとやはりとろりと蕩ける。
「うめぇ。
ありがとな。
すっげぇ嬉しい。」
穏やかにそして綺麗に笑った三条に長岡も笑った。
にこにこと表情を和らげ、空気までもやわらかくする三条は本当に癒しだ。
「飯一緒に食おうか。」
「はいっ」
春一番が吹いたというニュースより、なによりもこの笑顔が嬉しい。
「なに食うかな。
遥登なに食いたい?」
「俺が作ります。
正宗さんはなにが食べたいですか?」
「遥登」
「はい?」
「遥登食いたい。
あ、俺のちんこが食われんのか。」
「え…、え…?」
「な?」
正面から抱き着き、首に顔を埋め甘えた素振りをみせると三条はこくんと唾液を飲み込んだ。
「い、いただき、ます…?」
「ははっ、じゃあ先に食ってもらお。
飯はその後、な。」
今日はじめてのキスはチョコレートの味がした。
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