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第688話
やっと1日の勤務を終え、駐車場へ向かうと自分の車のみがぽつんと残っていた。
今日は早く帰れたつもりだが、つもりでしかなかったか。
見上げた寒空に半月が浮かんでいる。
『黄色いすいかみたいですね。
俺、すいかが黄色だとテンション上がっちゃいます。』
すいか、か
あの生徒は素直だ。
素直でのびのびとしている。
大人っぽい考えをする割りに子供のような事で喜んだり。
目玉焼きがとろとろだの、カレーがうまいだの。
小さな事で喜べるのはこれからの人生でもきっと役に立つだろう。
首を撫でる空気はうんと冷たい。
実家から届いた野菜があるから帰ったら鍋を作ろうか
いや、土曜にしよう
遥登を誘って鍋
2人で食べた方が美味いからな
またかと思われるだろうかと思いながら愛車に乗り込んだ。
じゃあ、今日は何を食おうか。
簡単にうどんか焼きそばか。
調理も洗い物も少ない物が良い。
『たまごとろとろです!
正宗さんの作る目玉焼きすごい美味しいです!』
実家に寄った時、持たされたレトルトカレーを思い出した。
カレーに目玉焼きのっけるか
とろとろなのはたまごか笑顔か、それとも自分の心か。
それなら早く帰ろうとハンドルを切った。
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