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第693話
「三条、本当にこれで良いのか?」
ぴらっと卓上に差し出されたのは先日提出した進路希望調査表。
「え、」
「なんでN大なんだって学年で話に出てな…。
三条の学力ならW大もいけるだろ。
R大も。
何も東京とは言わない。
関西だって良いところは沢山あるだろって。」
「…あんまり金銭面で迷惑かけたくないですし…」
反らされた目に俯き気味の三条はまるで言い訳でも言うかの様に言葉を吐いた。
流石の三条も来年度からはバイトも厳しいか。
いくら長期休暇でも、おすすめはしないのは確かだ。
「奨学金は考えてんだろ?
説明会来てたよな。
借金には変わりないが先生も使った。」
「先生も…」
「ちゃんと返してますよ。
他に返されてる先生もいらっしゃるしな。」
「…」
自分も使ったと話した一瞬、顔を上げたがまた何かを考える様に顔を下げてしまった。
黙りこくる三条は寒いのか手を擦り合わせている。
暖房ははいっているが、確かに冷える。
温度をあげよう。
三条に背中を向け暖房の温度を調節していると、小さな声が聴こえた。
「……なんの為にW大に行くんですか」
振り向くと手元に視線を落としたままの三条はぽつりと溢す。
何時ものころころした声ではない。
それは風が吹けば聞こえなくなってしまう程小さく頼りないもの。
だけど、何かを強く含んでいた。
「俺の…ため、ですか…?
学校の、評価ですか…。
俺は、評価の為に行きたくもない学校を受験すれば良いんですか…。」
「三条、」
忘れていた。
この子は感受性豊かな子だった。
誰かの期待やそれに似た思いまで汲み取ってしまうんだ。
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