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第694話
「三条、先生の話に付き合ってくれるか?」
「…?
はい。」
「先生な、N大に通ってたんだ。
そうだな、楽しかった。
学食も量あるし、安いし美味い。
だから個人的には可愛い生徒が後輩になってくれるのはすげぇ嬉しい。
だけどな、他の先生方が言う事も理解出来んだよ。
三条の選択肢を減らしたくねぇの。」
選択肢。
三条はそのカードを人より多く持っている。
勿論、努力した結果手にしたものだ。
だからこそ、それを使用しないなんて勿体ないと言う他の教師の声も解る。
折角なら使うべきだ。
だけどそれは三条にとってどうなのだろうか。
遥登にとってなにが最善か。
「それが例え国立でもだ。
国立だからどうとか、有名私立だからこうだとか、そういうんじゃない。
確かに有名なところにはいってもらって生徒が沢山入学してくれればって考えがないわけじゃないけどな、所詮県立校だ。
それに、そんな事を三条は考えなくて良い。
学年の先生方もそればっかりで言ってるんじゃない。
三条の可能性を狭めたくないんだよ。
三条は勉強が出来るし、面白いと思うならそれを伸ばしてやりたい。
教師ってのはそういう生き物なんだ。」
ゆっくりと顔を上げた三条は長岡の言葉を咀嚼し飲み込む。
何時もより沢山の時間をかけて噛み砕き、嚥下し、吸収する。
今、目の前のこの子は何をどう自分の身に入れたのだろうか。
不安気に揺れる目は何を写している。
「俺は、三条の意思を尊重してやりたい。」
脇に置いた資料をファイルに挟み三条に手渡した。
「N大の資料。
それから奨学金の事少し書いといたから目を通しといてな。
先生が使ったのと、良さそうなの見繕っといた。」
目の前で三条の不安気な目が揺れた。
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