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第695話
目の前で三条の不安気な目が揺れた。
「学校見学でW大も行きました。
設備も良くて充実してました。
けど、なんか違うって思ったんです。
先輩方に会ったり空気とか直に触れて、楽しそうだったけど…なんて言うか…、言葉に出来ないんですけど、違うんです。」
「うん。
そうか。
ちゃんと選択したんだな。」
擦り合わせていた手を止めるときゅっと握りしめ、前を、自分を見据えた。
それはすごく綺麗な目で、真摯な目。
さっきの不安な色はもう見えない。
「N大にいきたいです。
俺、教師になりたいです。」
教師になりたい
真っ直ぐ自分の目を見て、三条はしっかりと言葉を紡いだ。
「尊敬する先生がいて、その先生の授業がすごく面白くて、もっと知りたいって思うようになったんです。
話を読むのが楽しくて仕方ないんです。
その面白さを誰かに教えたいって思いました。
先生のお陰です。」
目を見張った。
教師は本当に色んな言葉を投げ付けられる。
良いも悪いも。
その中で…生きてきた中でこんなにも嬉しい言葉を貰えたのははじめてだ。
嬉しい。
そんなちっぽけな言葉じゃ足りない。
胸が、いっぱいになる。
言葉が出ない。
喉の奥がきゅぅっと狭くなる。
それなのに身体の奥からナニかが込み上げてくる。
色んな感情を込めて一言伝えた。
「そうか。
きっと良い教師になれるよ。」
向かいに座る生徒は一瞬驚いた顔をしたがすぐに何時もの笑顔で頷いた。
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