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第709話

「遥登、カレーあるけど食うか。」 もぞっとソファの上の毛布の塊が動くと長岡は優しく声をかけた。 「目玉焼きとチーズどっちが良い?」 「目玉焼き…チーズ…」 顔を出した恋人の顔はいまだどこかとろけている。 甘く気だるげな姿はさっきの性行為の最中と似ていた。 「両方?」 「良いんですか…?」 「良いですよ」 当たり前だろと、頬を親指で撫でると三条の口角が上がる。 こうしていると本当に愛玩動物の様だ。 主人を愛し愛される大切なかけがえのない家族。 「冷凍してたので悪いからな。」 「俺が食べて大丈夫ですか。 平日のご飯は…」 「乾麺もあるし気にすんなよ。 遥登と食った方が美味いし、一緒に食いてぇ。」 「俺も…一緒に食べたい、です」 素直に言えたご褒美、と両手で肉付きの悪い頬を包んでむにむにと動かすと何時もの遥登の笑顔が戻ってきた。 触ればすぐ骨がわかる肉付きの悪さは相変わらずだが、漸く慣れてきたのか笑顔も言葉も素直になってきた。 小さな変化だがとても嬉しい。 毛布の上から抱き締めると身動いだが、そのままソファの上から自分の膝の上にのせる。 「遥登と飯嬉しいな」 長岡がぽつりと本音を溢すと、三条ははっと顔を上げた。 自分をくるむ毛布から手を出すと服を強く握る。 「俺も、正宗さんとご飯嬉しいです。 一緒に沢山、あのっ、食べたいです。」 「ありがと。 でも、ひとりが寂しいとかじゃねぇから安心しろ。 遥登とだから嬉しいんだって。」 安堵の表情に口角が上がる。 本当に人の痛みの解る子だ。 痛い程にそれを感じ、必死に言葉にしてくれた。 自分が言うのもなんだが、良い子だ。 「生たまご落としてチーズのっけて焼くか。 あ、熱いな。 どうする?」 「とても迷います。」 三条を膝にのせたまま沢山話をした。 くだらない話、田上や吉田の話、カレーはどうするかの話。 楽しそうな顔につられて緩む頬を隠す事なく長岡も楽しそうにしている。 辺りが暗くなってもずっとくっついてやっと離れたのは少し早めの晩ご飯の時。 熱々の焼きチーズカレーは三条の食べるスピードを更に緩めたが、その姿を見て長岡はまた笑っていた。

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