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第711話
校門脇の梅の花が綻び始めたのは3月も半ばになってからだった。
卒業式に入学試験、合格者発表と続き、漸く年度末。
大分冬の寒さも緩んできた休日。
膝掛けを枕に長い脚を投げ出し本を読んでいた長岡はソファを軋ませ起き上がる。
「遥登、飲み物のおかわりいるか。」
「あ、俺が淹れてきます。」
「良いよ。
同じので良いか?」
髪をくしゃりと撫でられ頷くと、2人分のマグを手に台所へと歩く背中を見送った。
暫くして部屋中を包む香ばしいにおいに、手元の本にスピンを挟んだ。
沢山の本のにおいに、コーヒーのにおい。
穏やかに過ぎていく時間。
心地良い空間。
三条は本を閉じると、ぽけっと窓の外を眺める。
雲は多いが日が入る窓際は気持ちが良さそうだ。
そちらに移動しようかと迷っていると、目の前いっぱいににきらきらと色とりどりの光が広がった。
「あ、」
「ホワイトデーのおかえし。
俺も同じのになっちまったけど貰ってくれますか?」
振り向くといつの間にか背後に来ていた長岡は、座っている三条に視線を合わせしゃがみこんだ。
ん?と小首を傾げる長岡に三条は何度も頭を振る。
「はいっ。
勿論ですっ。」
ふわりとやわらかくなるその顔に胸が満たされていく。
手に置かれるキャンディーポットには色んな色が沢山詰まっていた。
「ありがとうございます。
今年も大切に食べます。」
「どういたしまして。」
もう一度髪を撫でられ近付いてきた長岡に目を閉じた。
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