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第713話

長岡の背中の独占欲が消える頃、生徒達が待ちわびた春休みがやってきた。 生徒達はやっと春休みがきたとあちらこちらで伸びたり欠伸をしたり気を緩めていたのはつい先日。 課題がたんまりと出ても学校に来なくて良いだけで嬉しいのはよくわかる。 大量のコピー用紙を抱えながら無人の教室の前を通りかかり、羨ましくないと言えば嘘になるが、 「正宗さん、おかえりなさい。」 「ただいま。」 帰って来てこの笑顔が見れるんだから仕事も悪くはない。 「正宗さんって何時ものこんなに遅いんですか?」 「んー、今日は普通。 この前が早かっただけだ。」 9時5時なんて役所だけじゃないか。 そもそも授業は9時前にははじまっているしな。 腕時計に視線を落とすと、飯を食べたら直ぐ様送り届けなくてはいけない様な時間は流石に免れたがゆっくりする時間は短い。 「それにしても美味そうなにおいすんな。 今日の飯は?」 「生姜焼きです。 あと、里芋煮ました。」 「美味そ。 先に飯食う。 腹減った。」 炊事場で手洗いうがいを済ませていると、じゅわじゅわと肉の焼ける香ばしいにおいに腹の虫が大合唱をはじめる。 醤油と砂糖の甘辛い味にピリリと生姜がアクセントを加えたそれだけで飯が進むと言うのに他の皿には里芋の煮っころがし。 実家から送られてきた里芋が美味そうに照っている。 「遥登料理上手いよな。 芋美味そう。」 皿からひとつつまみ上げ口に放り込めば三条の目がフライパンから此方を向いた。 まるでつまみ食いが見付かった子供の気分だが、それなら三条も共犯にしたら良いのだと更にもうひとつつまみ上げ三条の口元に運ぶ。 「遥登も。」 一瞬迷った様な顔をしたが、すぐに悪戯っ子の顔になり口を開けた。

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