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第718話

学年集会が終わって廊下に出ると、生徒の波の中に飛び出た頭を見付けた。 「三条…っ、知ってたけど良い奴だな! モフで飲み物1杯奢ってやる! メロンソーダか。アイスコーヒーか。 何が良い。」 その横顔は窓から差し込む春の日差しにやわらかく照らされている。 何を話しているのか楽しそうだ。 遥登は、どの季節も似合う。 穏やかな春 眩しい夏 鮮やかな秋 静かな冬 どれもとてもよく似合っていて楽しそうで色鮮やかだ。 瞬きがシャッターだったらその一瞬一瞬を切り取っておけるのに。 あぁ、でも、それが出来ないから尊くて大切に思うのか。 柄にもなくそんな事を思った。 「3人組、本当に仲良いな。」 その頭に声をかけるとすぐに振り返ってくれた。 太陽の光にあたためられた髪はさらさらと動く。 「うぃっす。 あ、聞いてくださいよ。 三条マジで良い奴なんすよ。 俺達と一緒で嬉しいとか言ってくれて。」 「へぇ。 三条、先生とももう1年よろしくな。」 「はい。 よろしくお願いします。」 はにかみながら頷く三条に平静を保つ。 教師の仮面は剥がれてないだろうか。 もう少し楽しそうな3人組を眺めていたいが先に片付けなければいけない仕事がある。 「あ、ロッカー運んだら放課して良いって言っておいてくれるか。 ちょっと職員室寄らないとで待たせたら悪いから頼むよ。」 「うぃー。」 「ありがとう。 助かる。」 そう言って歩みを早めると道を譲ってくれる優しい生徒に甘えて先を急ぐ。 すれ違い様に手の甲をあたたかい手にぶつけた。

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