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第733話
咲き匂う薄紅に、恋人まで満開になる。
「桜!
満開です!」
「満開だな。」
千朶満朶。
どんな満開の花よりも1番近くて咲く花の方が愛おしい。
恋人はそれに気付いているだろうか。
いや、ないな。
「おにぎりってこれだったんですね。
お花見今年初です!」
「遥登が飲める様になったら花見酒しような。」
「はいっ。
楽しみです。」
にこにこと嬉しそうな顔が見れただけで充分満たされたが、次は三条の腹を満たさなくては。
なにしろこの恋人は見た目以上によく食べる。
「飯にするか?」
「はいっ。」
車に乗り込み2人で握った握り飯を取り出すと三条はペットボトルのお茶を差し出した。
前回の事を覚えていたんだろう。
色素の薄い肌に桜がよく映える。
いや、遥登の笑顔に桜がよく似合う。
どれが良い?と握り飯を差し出すと右を取ったので左の握り飯は自分の分だ。
「いただきます。」
「いただきます。」
一口頬張ると中味はからあげだった。
遥登のは明太マヨネーズらしい。
どっちも遥登が握ったものだ。
頬を脹らませ美味そうに握り飯を食う遥登に自分ももう一口食う。
遥登が握ったにぎりめしを食べながらの桜は綺麗で腹も心も満ちていく。
「桜も綺麗だし、おにぎりも美味しいです。」
「うまいな。」
口端に付いた米粒を親指で拭い取り口に運ぶその姿は妙に色っぽい。
桜が惑わすのだろうか。
「遥登」
「はい?」
「綺麗だな。」
「はい。
綺麗です。」
細い手に自分の手を絡め、恋人繋ぎをする。
頬を花と同じ色に染め、握り返してくれる手を大切に大切に握ると暫く指を絡めたまま花を眺めていた。
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