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第742話

「三条、からあげちょーだいっ」 「いちごと交換。」 「ぐぅぅ…」 目の前でパンをかじっていた田上の要求にそう返せば唸った。 季節のデニッシュは洋梨からいちごに変わり、粉糖がかかっても艶々と輝くいちごは美味しそう。 しらすと青ネギの入ったたまご焼きに箸を伸ばすと吉田が楽しそうに笑った。 「毎週それ見てるよな。」 「だって、三条の家のからあげうめぇんだよ。 わかるだろ?」 「わかるけど、早く交換すれば良いんじゃね。」 モグモグと頬を膨らませ今日も楽しい昼休みを友人達と過ごす。 「…わかったよ。 交換な。」 「やった。 田上ありがとう。」 「悔しいけど、うめぇ。」 教室が1階下がっただけの代わり映えもしない教室に、見慣れたクラスメイト達。 教室を出て階段を挟んだ向かいは準備室。 長岡の机がある。 教科書やジャージを取りに廊下へ出れば会える確率はかなり高い。 それだけで嬉しくなるから本当に手軽で良かった。 交換したいちごは最後に食べようかと思ったけど、摘まんだまま口に運ぶ。 じゅわっと口いっぱいに広がる甘酸っぱい春の味に三条は昼休みずっとにこにこしていた。

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