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第744話

相川の大きな声に教頭が不審げに印刷室を覗き、場所と時間を変えて改めて話を聞く事になった。 昼休みだと言うのに、生物室はなんだか他の教室より肌寒さが増しているようだ。 準備室に置かれてるガムテープで穴を塞がれた古びたソファーはスプリングもあまり心地よくはない。 だけど、そのソファに置いてあるクッションとブランケットは割かし最近購入したもののようだ。 「東京で美味しいご飯、ですか。」 「はい…。の……あの………」 「ゆっくりで構いませんよ。」 「…僕でも行けるようなお店だと、助かります…」 出されたお茶に口を付けながら考える。 最近はすっかり行く事のなくなった都会の街。 最後に訪れたのは野球観戦。 何時か遥登とナイターでも観れたら最高だろう。 そういえば…と、何時かの酒の席で魚が好きだと言っていた事を思い出した。 「んー、そうですね。 あ、魚料理が美味しかった店があるので後で場所送りますね。 あと安くて美味い店。 大丈夫ですよ。 僕が行けるんですから相川先生も行けますよ。」 「あ、ありがとうございます。 助かります…。」 相川の微妙な空気の変化にじっとその顔を観察する。 安堵の色が濃い中、若干口角が上がっているようにも見える。 角度のせいだろうか。 でも、なんとなくそう思う。 「デートですか?」 「でっ!!」 ダサい眼鏡の奥で目が真ん丸になった。 解りやすい反応がとても面白い。 「で、でーと…」 「あ、すみません。 なんか楽しみそうでしたから。」 「あ…いや、…あの…」 「セクハラですかね。 忘れてください。」 「いえ…、でーと、です…」 きゅぅと白衣を握り、たどたどしく発言する相川。 そうか、この人にも大切な人がいるのか 「それは素敵です。 じゃあ、店選びも責任重大ですね。」 「あ…よろしくお願いします。」 目を細める長岡に相川は深々と頭を下げた。

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