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第761話
「遥登、手貸して。」
「手…?
どうしたんですか?」
ケーキを食べ終え、隣でゆっくりとしていると突然言われた。
手のひらを上に向けて差し出すとくるりとひっくり返される。
冷たい何かが触れバンドを回されるとと細い手首にシンプルな文字盤の時計が留まっていた。
「これ…」
「誕生日プレゼント。」
「こんな高そうなもの…いただけません…俺には勿体無いです…」
こういうものに縁のない自分にも良いものだとわかる。
急に手首が重くなり、こわくなる。
「遥登」
「…」
顔を上げると、しっかりと目を見て頷かれた。
解ってる。
正宗さんが自分に似合うと選んでくれたものだ。
断るなんてとても失礼な事。
そして、長岡の心を否定する行為。
長岡は三条に目線を合わせ、優しく髪を梳いた。
冷たい手から色なものが伝わってくる。
「ありがとうございます。
大切にします。」
「ん、どういたしまして。
大切にするのは嬉しいけど、ちゃんと使ってくれよ。
スマホあるから時計なんて必要ないかとも思ったんだけどな。
受験の時も使えるし、この職業あると便利な時もあるから。」
先をも見据えたプレゼンに送り主を見ると本当に嬉しそうにしている。
プレゼントは贈る方も贈られた方もこんなにしあわせになるんだと改めて思う。
当たり前過ぎて見えていなかった。
この人の傍にいると改めてしあわせに包まれていると痛感する。
しあわせだ。
すごく、しあわせだ。
色んな角度から腕を眺め、触れ、まるで子供の様に目を輝かせる三条を見る長岡も満足気。
格好良い
それに、見た目より軽い
「細いから詰められるステンレスバンドとも思ったけど、この腕には重い印象になるだろ。
こっちの方が軽そうで似合ってる。」
綺麗な盤にベルトもシンプルで確かに自分の細い腕にも重い印象は受けない。
するりと指先でなぞると滑らかでひんやりしててどこか長岡に似ている気がする。
「これ、濡れても大丈夫ですか?
壊しそうでこわいです…。」
「ははっ、生活防水付いてるよ。
それに、このバンドとあの首輪似てんだろ。
首輪の代わり。」
「…っ!?」
艶っぽく笑う長岡に三条は目を大きく開いた。
「俺の遥登だからな。」
「……ずっと、着けてます」
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