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第762話
「遥登、味見。」
カレーを掬ったスプーンを差し出すと隣でチキンカツを作っていた顔が此方を向いた。
味見の言葉に無邪気な顔を見せてくれる。
「いただきます。
美味しいですっ。」
「何時もそればっかりだな。」
「本当に美味しいんです。」
それを言うなら遥登の作る料理はどれも塩梅が良い。
子供に合わせた少し甘めの味付けが逆に家庭の味を強く連想させる。
そういえば実家も昔は甘い味付けだったが、いつの間にかそれも薄れ味も薄味になった。
だがら余計懐かしく思うのだろうか。
「目玉焼きと茹でたまごどっちが良い?」
「今日は豪華ですね。」
「そりゃ遥登の誕生日だからな。」
カレーにチーズを挟んだチキンカツをのせて、スープにサラダに1人の時よりうんと豪華な食事だが、誕生日にはどうだろう。
小さな心配はすぐに吹き飛んだ。
…違う、遥登が吹き飛ばしてくれた。
「正宗さんとご飯嬉しいです。」
屈託のない笑顔で言われてしまえばその不安なんてものは、いかにくだらないものだったのかを知る。
豊かな表情は自分の心まであたたかくする。
「俺も遥登と飯食えて嬉しいよ。」
「良かった。」
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