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第763話

「熱いからしっかり冷ませよ。 中にチーズ入ってるからな。 また口ん中火傷すんぞ。」 「気を付けます。」 長岡が一口食べる迄、カツを執拗に冷まし口に運ぶ。 まだサクッとした表面に三条の顔には笑顔が溢れる。 「ん、まー」 「すげぇ良い顔して食うな。」 頬を膨らませる三条に長岡もカツを掬う。 からあげとカツと選べないなら両方の良いとこ取りをしようとチキンカツにしたが、想像以上の反応に此方までしあわせな気持ちになる。 恋人の存在はとても大きい。 一口で口に運収めると、衣がサクサクと上顎を痛めるが確かに美味い。 「どうしたんですか?」 「なんでもないよ。 美味いな。」 「はい。 美味しいです。」 口元を隠してもしあわせそうな顔をしているのはわかる。 目だろうか。 それとも空気。 なにがこんなにも遥登の感情を映すのか。 不思議な位伝わってくる。 「正宗さん」 「ん?」 「ど、どうぞ。」 ぽけっと考えていると口元にカツがのったスプーンが運ばれてきた。 三条はなんてことない風を装っているが耳が真っ赤になっている。 「餌付け?」 「…です、」 「ははっ、懐いちゃお。」 ぱくっと食うとぶんぶんと尻尾を振る。 今日は沢山可愛い顔が見られた。 嬉しそうな顔も、照れた顔も、心配そうな顔も。 やっぱり笑った顔が1番似合っているがそれでも豊かな表情は見ていて飽きない。 「んじゃ、俺も餌付け。」 あぁ、でも、 ころころ笑うその顔が1番好きだな。

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