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第780話
「母さん、ちょっと良いかな。
洗い物は俺がするからこっち来て。」
「どうしたの?」
夕飯後洗い物をしようと腰を上げた母親をソファに座るよう促すと、後ろからゆっくり優登が近づく。
「これっ。
母さん、いつもありがとう。
母の日の花!」
黄色いリボンの巻かれた淡いピンクのカーネーションを差し出す優登も遥登も、にこにことまるで悪戯が成功した様に笑っている。
母は弟によく似た丸い目をやわらかく細め、優登から花を受け取った。
2人で選んだ淡いピンクは母にとってもよく似合っていて、2人は顔を見合わせて笑い合う。
「あとケーキ買ってきたから食べよ。」
「ありがとう。
遥登、優登、おいで。
ぎゅーしよ。」
「俺は…、もう18だし…」
「俺も。
もう6年だし。」
「やだ…。
お母さん寂しい。」
嬉しくて少し寂しい息子達の成長に、母はカーネーションを抱き締めたまま拗ねてみせた。
遥登は優登の背中をぽんと押して生け贄に差し出せば母は今だと抱き締める。
思春期の優登がやだと暴れていると、風呂から出てきた父が顔を覗かせ優登の変わりに隣に座った。
優登は逃げる様に台所へと駆け込み、皿とフォーク、お茶の準備をしていた兄の背中にタックルを決める。
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