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第782話

キーボードを叩きながら、頭の隅で他の事を考える。 6月になればテスト週間。 テストが終われば体育祭、そして夏季休業。 その頃には受験モードも加速し、秋には多くの推薦がはじまり冬を迎える。 本番は来年と言ってももう半年。 何時までA組はあのままでいられるのだろうか。 何時まで三条の笑顔を見ていられるだろうか。 「長岡先生、コーヒー淹れました。 一息ついてください。」 「あ、ありがとうございます。 いただきます。」 穏やかに微笑む亀田から手渡されたコーヒーは冷たくて、頭がはっきりする。 赴任当初、コーヒーを淹れるのが好きだと亀田は笑って自己紹介してくれた。 確かに亀田が淹れてくれるコーヒーは、インスタントよりうんと香りが良くて苦味も深く美味しい。 「美味しいです。 水出しですか?」 「良かった。 今日は暑いって予報でしたから、昨日のうちに用意してたんですよ。」 「なんだかすっきりしました。」 にこにこと皺を深める亀田は長岡が悩んでる事などお見通しなのかもしれない。 本当に頭が下がる。 どうであれ、A組はA組には変わりない。 無事、41人で卒業出来れば1番だ。 最後まで卒業までしっかり向き合う。 それが、長岡に出来る事だと背中を押された様な気がした。

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