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第794話
後方の標本棚に並ぶホルマリン漬け、めだかの水槽、房掛けが外れたままの暗幕。
だけど、綺麗に清掃されている生物室は他の教室に比べて涼しい気がする。
「高温の環境に生育する生物は、その環境に合わせ高温でも生きていける酵素を持っています。
逆に言えば、低温の環境では酵素活性が低温の生物が主になっています。
比較して見ていきます。」
グラウンドからの日光は大木で遮られ、風だけが通る。
カラカラと車で遊ぶハムスターも元気そう。
この気温の中毛皮を着ているのだから熱いだろうに。
「低温は生物の生存にとって厳しい環境ですが、多くの微生物が生息し活発に活動を営んでいます。
低温微生物は低温に適応する…」
低い作業机に向かいながら生物教師の言葉をメモし、資料集にも目を通す。
今回は範囲こそ狭いが用語が多く覚える事も沢山。
最後の学年、納得のいく結果を残したい。
順位ではなく“自分”が納得のいく結果。
「高温環境は海底の熱水噴出口周辺が有名ですね。
では、低温環境ですが…」
もさっとした髪の生物教師は真っ白い白衣をはためかせ、黒板いっぱいに文字を書く。
丁寧に丁寧に進める生物教師の授業は穏やかに進んでいった。
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