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第795話
教科書とノート、資料集にペンケースを持って教室から出ようとすると背後から呼び止められた。
申し訳なさそうに眉を下げる教師は授業中よりもおどおどしている。
「あの…、三条くんは…長岡先生のクラス、ですよね…?
あの、このプリント…長岡先生に渡して貰っても良いですか…。」
「はい。
分かりました。」
「すみません。
これから、出張で…。」
「大丈夫ですよ。
準備室も近いですし。」
クリアファイルに挟まれた数枚のプリントを預かる。
そういえば、この生物教師と担任は仲が良いらしい。
眉目秀麗な担任と、平々凡々の生物教師。
一見正反対に見えるが、同期に赴任したらしく、ゴールデンウィーク明けにはお土産を貰っていた。
お土産を分けて貰ったが、柑橘がふわりとかおって美味しかった。
心の中でご馳走さまでしたと手を合わせる。
担任の見た目よりずっと真面目で飾らない内面に、相川も肩肘を張らずにいられるのだろう。
なんとなく解る。
「ありがとうございます。」
「いいえ。
今日の授業も面白かったです。」
僕の説明でわかりますか、なんて謙遜だ。
丁寧に丁寧に教えてくれる。
「来週も楽しみです。
あ、今度ハムスター見せてもらっても良いですか?」
「勿論です。
何時でもどうぞ。」
飾らない素朴な人柄が滲み出る笑顔で頷く相川に三条も笑顔を向ける。
「あ、行かなきゃ…。
三条くん、よろしくお願いします…。
ハムスターは何時でも来てくださいね。」
頭を深々と下げる相川に三条も頭を下げると廊下へと出た。
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