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第797話
担任は脚も長くて、小走りになっても追い付けなかった。
開けっぱなしの準備室から中を覗くと今腰掛けたばかりだろう担任と目が合う。
「失礼します。
長岡先生、これ相川先生から預かりました。」
手渡すと、預かりもの?と不思議そうな顔をしたが、ファイルを見て納得した様子だ。
長岡は中にさっと目を通し確認すると、改めて三条と向き合った。
当人は当たり前の事をしているだけと思っていても、こういう小さな事が三条の心を擽る。
椅子に座ったままなのは生徒を見下ろさない為。
長身な担任はそれだけで見下ろしてしまう。
それをしない為に授業中質問をする時も屈んで視線を合わせてくれる。
「あぁ、ありがとう。
確かに受け取りました。」
「じゃあ、失礼します。」
「あ、三条。
お礼。
亀田先生から貰ったのだけど、キャラメル。
どうぞ。」
「ありがとうございます!」
手のひらに乗せられた小さな包みに三条は笑顔を見せる。
きゅっとそれを握り締めると、担任の口端が僅かに上がった。
「次の授業もしっかりな。」
「はい。
失礼しました。」
一礼して準備室から出ると亀田と擦れ違った。
頭を下げ隣を通り過ぎると、もう1度手のひらのキャラメルを見て握り締める。
キャラメル
昼食べたら食べよう
ポケットに大切にしまうと、律儀に廊下で待っていてくれた田上と吉田の隣へ駆けた。
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