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第808話

青苗が育つ田園に、空の色が移ってとても綺麗。 のびのびと上に下に伸びる稲からきっと今年も美味しい米が獲れる。 今から待ち遠しい。 3人並んで歩くそんな道のり。 放課後になっても昼間の暑さは残っている。 もう少し暗くなると空気も冷えてくるのだが、それもあと僅か。 日に日に空は夏の色を濃くしていた。 「こんな近くに図書館出来てラッキーだよな。」 「ここら辺って今まで図書館なかったんだ。」 「そうなんだよ。 図書館使う時は隣町まで行ってた。 うちあんまパソコン貸してもらえなかったし、めっちゃめんどくさかった。」 「わかる。 うちは親が簡単に調べるより手間かけた方が忘れなくて良いから図書館まで行って調べてこいって。 遠いっつーの。」 テスト勉強をしに横断歩道を渡ってすぐの図書館へと向かう最中、あまりの暑さに口から出るのは愚痴っぽいものが多くなる。 身体がまだ慣れていないから殊更だった。 有り難い事に三条が住む市の図書室は自宅からもそう遠くなく散歩がてら歩いても利用出来たが、田上の住む村の図書館は田上の家から子供の足で30分はかかる。 自転車でも、温風を浴びながら向かえば汗だくになるだろう。 そんな話をしながら信号が色を変えるのを待ち、見上げた先の建物はここら一帯に住む住民待望の図書館。 三条達が入学した時には既に出来ていたが、まだ真新しい図書館は黴のにおいなくて明るく開放的。 2階の自習室は綺麗で学校のすぐ近くとなれば利用する頻度も高くなる。 学校の図書室は同じ階の2学年が多く使う。 少しでも暑い思いはしたくないし利用したい気持ちはあるが、自分達が2学年時を思い返すと、やはり先輩がいると遠慮をしてしまうし利用頻度は落ちた。 3学年になってのテスト勉強は図書館か教室が多い。 暑い思いは教室よりは涼しい図書館が良いと外に出たが、今日も天気が良過ぎる位だ。 清掃の行き届いた自動ドアが開くと、冷風が足元を撫でた。

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