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第815話
「にちゃっ、みみたまま!」
「優登、みずたまりだよ。」
「みー、たま?」
「惜しい。」
みーと口を横に広げる弟は水溜まりを何時もみみたままと言っていた。
あー、とか、
うー、とかしか言えなかったのに、どんどん言葉を覚える小さな弟はすごいと思う。
それこそスポンジの様に吸収し上手く言えなくとも覚えていく。
「ばちゃっ!」
ちゃぷっと長靴のまま水溜まりに飛び込む弟は、それはそれは楽しそうな顔を此方に向ける。
遥登はぷくぷくの頬を横に伸ばし、優登は兄の服を引っ張ってきた。
「にちゃっ、にー、」
「どうしたの?」
「にちゃ」
楽しいと兄も誘うが上手く伝わらず服を引っ張り誘う。
「どうしたの?
遊ばないの?」
優登は伝わらないと分かったのか、興味はまた水溜まりに移った。
泥と雨水を掻き混ぜたり、上澄みだけを蹴ったり、水溜まり遊びを堪能する。
「あ!にちゃ!」
あ、と大きな声で何かを見付けるとぐいぐいと服を引っ張ってきた。
そんな弟に目線を合わせる様にしゃがむと、小さな指で指差す方を見上げて弟が何度も自分を呼んだ理由がわかった。
「虹だ!」
「にー!」
ぴょんっと優登が跳ねるとばちゃんっと遥登の服を汚してしまうが、それよりも大きな虹が凄いと2人で大きく口を開けたまま空を眺める。
「にちゃっ、にちゃっ」
「母さんっ、虹だよ!
優登が教えてくれたっ!」
「え?
本当だ。
おっきいね。」
雨のにおい
アスファルトのにおい
そのにおいに名前がある事を知るのはずっと大きくなってからだった。
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