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第860話

三条もすっかり目が覚め、歯磨きと朝飯を済ませると、早々にベッドに引き返した。 冷房で冷えたシーツが気持ち良い。 少しの背徳感がより気持ち良さを引き立てる。 不意に長岡の手が自分の腕に触れた。 「本当に日焼けしにくいんだな。 当日は赤かったけど、痛くねぇか?」  「大丈夫です。」 腕をまじまじと見られ、なんだか照れてしまう。 骨に皮が貼り付いた様な貧相な身体は好きではなかった。 それが、好きな人に好きだと言ってもらえるだけでほんの少し好きに変わった。 半袖シャツから見える腕を擦る。 「…コンプレックスだったんですよね。 こんな体型だし、もやしみたいで。」 「もやしって、生育途中コンテナぶっ壊す事もあんだぞ。」 「…そう、なんですか?」 「それに、もやしって萌やすからきてんだよ。 萌やすって発芽させるって意味でな、遥登の芽が出るに似てるだろ。」 長岡を見ると愛おしいしそうに微笑まれた。 「安いし毎日食っても飽きねぇ。 それなのに栄養価も高けぇし、すげぇな。」 屈託のない笑顔に、心の奥がぽかぽかする。 本当に正宗さんは俺の扱いが上手い。 「正宗さん、ありがとうございます。」 「ん?」 俺はこの人から沢山のものを貰っている。 愛情、ぬくもり、勇気、知識。 他にも沢山。 その内のどれだけを自分のものに出来ているのか不安になる時がある。 でも、きっと全部俺のものになっている。

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