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第875話

漸く太陽が山に帰っていく。 空の色を変えるのなら、気温も変えてくれと願うがそうもいかない。 いまだ暑さの残る空気に肌がペタペタして気持ち悪い。 「三条、何が良い?」 「え?」 「金落ちるから選びな。」 玄関前の自販機に小銭を投入すると有無を言わさず、三条に選ばせる。 ガコッと吐き出されるそれと同じものを長岡も押すと1つを教え子に手渡した。 「ほったらかしてたお詫びです。」 「気にしてませんよ。 でも、ありがとうございます。」 頭を下げる三条の髪がさらっと動いた。 癖がなくて真っ直ぐで、触れていて気持ちが良い髪。 触れたいが此処は職場だ。 ぐっとその衝動を堪える。 「どういたしまして。 親御さんにも話しといてな。 面談で最終確認取れたら、面談練習したり放課後残って貰わないとだし。」 「はい。」 ミンミンとけたたましく鳴く蝉につい声が大きくなってしまう。 入学式前長岡がちまちまとシールを貼った下駄箱から靴を取り出すと靴を履き替え振り返った三条は、段差のせいもあり何時もより低い位置にあった。 去年の身長差はこんなだっただろうか。 懐かしい。 「先生?」 「いや、なんでもない。 気を付けて帰ってください。」 「はい。 あの、よろしくお願いします。」 もう1度三条は頭を下げた。 大丈夫。 そんなに心配しなくても支えてみせる。 安心させる様に口角を上げると、長岡はコツっとポケットをつついた。 それが意味する事を知っている三条は僅かに頷く。 「任せてください。 じゃあ、また明日。」 「はい。 また、明日。」

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