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第878話

先生がプリントに書き込みはじめた。 ファイルから書類を取り出し書き込み、真剣なその姿に目を奪われる。 二重もくっきりしていて睫毛も長い。 お土産のボールペンを握る節のしっかりした、だけど撓やかな指。 どれも綺麗。 見られている事に気が付いていないのか真剣な目で仕事をはじめてしまう長岡をこんな近距離で見れる機会はそうない。 三条は静かに眺めている事にした。 暫く眺めていると長岡は何かに気が付いた様に腕時計を見るとはっと顔を上げた。 一体どうしたのだろか。 「悪い…、ほったらかしてた…。 こんな遅くまで残してしまって。 今更なんだが、田上どうした?」 「田上は用事があるって先に帰りました。 吉田は予備校です。 俺は暇ですし。」 「あ、電車あるか? 待つようなら、暑いけど此処で待ってても良いぞ。 教室誰か居るか。」 「先生は此処に…」 今度は自分がはっとした。 此処は学校だ。 なに女々しい事を言おうとしたんだ。 手の甲で汗を拭いながら口元を隠すも頬がアツい。 つい2人の時の癖で… 学校だってのに… 「もう少し此処にいますよ。」 「…ご迷惑でなければ、此処で待たせてください。」 「勿論どうぞ。」 やわらかな表情のままなにか本でも貸そうかと言われたが、見てるのも楽しいと断る。 正直な話、もっと長岡を見ていたかった。 長岡はプリントの裏に文字を書き込むと差し出してくる。 『一緒にいれんの嬉しい』 嬉しいその言葉に、自分も同じだと頷いた。

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