879 / 1273
第879話
仕事のキリの着いた担任と一緒に玄関までやって来た。
わざわざ良いと言ったのだが背中を押され、進路室から歩いてきたがなんだか落ち着かない。
「三条、何が良い?」
「え?」
「金落ちるから選びな。」
突然かけられた声に下駄箱に向いていた視線を背後へ移すと、長岡が指差す自販機は既にお金が投入されていて光っている。
どれにしようか迷う時間はなさそうで、よく昼休みに飲む物を指差すとすぐにガコっと吐き出された。
長岡はもう1つ同じ物を購入すると片方を差し出した。
「ほったらかしてたお詫びです。」
「気にしてませんよ。
でも、ありがとうございます。」
手渡された缶ジュースは冷たくて気持ち良い。
頭を下げると髪が顔にかかって邪魔だ。
そろそろ切りに行こうと考えながら顔にかかった髪を払う。
「どういたしまして。
親御さんにも話しといてな。
面談で最終確認取れたら、面談練習したり放課後残って貰わないとだし。」
「はい。」
下駄箱から靴を取り出すと内履きと履き替える。
爪先の足の位置がおかしくて踵に指を入れ直し、靴を履き替え振り返った長岡は、段差のせいもあり何時もより高い位置にあった。
去年の身長差はこんなだったなと思うと懐かしい。
「先生?」
「いや、なんでもない。
気を付けて帰ってください。」
「はい。
あの、よろしくお願いします。」
三条もう1度頭を下げた。
自分のせいで仕事が増えるかもしれない。
帰りが遅くなるかもしれない。
だけどきっと長岡はなんて事ない顔で土日傍に居てくれる。
頭を上げると、長岡はコツっとポケットをつついた。
「任せてください。
じゃあ、また明日。」
「はい。
また、明日。」
三条は安堵しながら帰路を急いだ。
ともだちにシェアしよう!