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第886話

「マジでうめぇ。」 「大袈裟ですよ。 普通の麻婆丼です。」 今年も大量に貰った茄子でなにか夕飯をとリクエストしたらピリ辛の麻婆茄子を作ってくれた。 折角の麻婆茄子、がっつり米と食いたいと申し出ると丼にして出してくれるし、冷蔵庫の野菜でサラダも作ってくれるし、味噌汁まである。 至れり尽くせりの夕食をガツガツと胃に納めていく。 「遥登が作ってくれるから美味いんだよ。 マジで最高。」 国語科教諭と思えない恋人の語彙にくすくす笑う三条の隣に、長岡は米を掻き込む手を止め座り直した。 自分を見るあの目。 澄んでいて綺麗で、汚したくなる。 「隣だともっとうめぇかもな。」 「正宗さんと食べると美味しいです。」 「安上がりだな。 でも、一緒に食うと美味いな。」 綺麗に口角の上がったその横顔が、此方を向いた。 今度は真剣な顔に代わった。 「あの、受験の事なんですけど、よろしくお願いします。 沢山、先生の時間使っちゃいます。 だけど…」 俯いてしまった三条に麻婆茄子ののったスプーンを差し出す。 それに気が付いた三条はまた視線を上げた。 「まだ教師としても頼りないけど、全力でサポートするって言ったろ。 あの言葉に嘘はねぇよ。 ほら、食え。 食って寝て体調整えろ。 その上で勉強出来んだから。」 「はい。 いただきます。」 ぱくっと食い付くと、1番似合う顔になった。 1番似合って、1番愛おしい顔。 髪を掻き乱し破顔した遥登と肩をぶつけながら食事を済ませた。

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