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第896話

それなら、古い物だがエアコンをつけてる準備室にどうぞと相川に誘われ有り難い事に涼しい部屋で昼食になった。 相川も久し振りに誰かと食べれて嬉しいですとはにかんだ。 昼飯を作って貰う代わりに弁当を作ると申し出た三条が作ってくれた弁当の中身が気になって朝からそわそわしていた長岡は早速弁当を手に取った。 ぱかっと蓋を開けると、ぎっしり詰まったしょうが焼きに黄色いたまご焼きたこさんウインナー、野菜のナムル、茄子と厚揚げの炒め物が綺麗に詰まっている。 「わ、美味しそう…」 「うまそう…」 「え?」 「いや、いただきます。」 思わず漏れた感想に相川は小首を傾げた。 自分が作った体にした方が話はめんどくさくないだろう。 嘘を吐いて申し訳ないと思いつつ手を合わせる。 長岡が座るスプリングの壊れかけたソファの脇に置いてあったブランケットは日光の当たる窓際に干されていた。 余程大切なものなのだろう。 丁寧に扱われている。 長岡は視線を手元に移し直す。 相川は自席の椅子に腰掛け此方を見ていたが長岡が箸に手を伸ばすと、相川もいただきますと自分の机に向かい手を合わせた。 しょうが焼きを箸で持ち上げると口に運ぶ。 しょうががピリリと効いていて食欲をそそる味付けがなんとも美味い。 うめぇ この味、遥登の飯だ 弁当なんて何時ぶりだ ははっ ウインナー、たこかよ こうやって育ったんだろうな ぱくぱくと腹に納められていく弁当と、充ちていく活力。 満たされるのは腹だけではない。 柔らかくなる空気に表情。 だからこそ、準備室では食べにくかった。 それに、恋人とはいえ本校在学生のお手製の弁当を沢山の職員の中、と言うのは気が引けた。 「暑いと食欲が落ちますね。」 「そうですね。 そうめん湯がくのもあつくて。」 「わかります。 それに、ひとりだと…、」 ひとりだと、味気ない。 誰かと食べるから、 大切な人と食べるから美味しい。 それを知っている2人の教師は恋人が恋しくなった。

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