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第899話
「買い込みましたね。
食材も買いましたし、引き籠れます。」
引き籠るという言葉に問題はあるが、実際引き籠っているのだから合っているのか。
休日中の買い物を済ませ車に乗り込むと、キャップを被った遥登は後部座席から声をかけてきた。
今日もにこにこと1等好きな顔を見せてくれている。
贅沢な休日だ。
「そうだな。
でも、なんで食費折半なんだよ学生。」
「誕生日ですよ。
なんで本人が出すんですか。
車だって出してもらって。
本当は全額俺が出したかったんです。」
「受験に金かかるだろ。
貯金しとけ、貯金。」
それを言われると痛い三条はぐぅぅと黙った。
バックミラーからその様子を覗き、渋い顔をする三条に声をかける。
「膨れんなよ。
ほら、帰んぞ。」
「お願いします…」
「膨れてるはるちゃんもかわい。
部屋に帰っても膨れてたらキスすんぞ。」
「……、ずっと膨れてます」
可愛い物言いにもう一度バックミラーで後ろを確認するとキャップで顔を隠してはいるが、纏う空気はやわらかい。
「そうか。
ずっと膨れてんのか。」
「…膨れてます」
「じゃ、“来年”は甘えようかな。」
「…っ!」
膨れていた筈のその、顔がみるみる内に笑顔に変わる。
見えなくなってそれが解る。
「はいっ!」
元気良く返事をする恋人に長岡は笑顔を溢すと、部屋へと急いだ。
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