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第906話

顔を洗いに洗面台の前に行くと、首筋が僅かに赤くなっていた。 明日には消えるだろうその痕をつけた本人は、ご機嫌で朝食兼昼食の準備をしている。 本当に成長期だよな 前は赤くならなかったのに 消えてしまうのは勿体無いが、もう明日には学校が再開される。 三条は生徒、長岡は教師としての仕事をまっとうしなければいけない。 恋人としては接する事が出来ないが、また毎日会えるのは嬉しい。 そっと、その痕を指先でなぞり身支度を整え、リビングに戻ると甘いにおいが立ち込めていた。 誕生日にはケーキが必要だと1歩も譲らなかった三条はせっせとオーブンレンジを使って土台を作っているらしい。 ケーキよりも三条が隣に居てくれる方がとびきりの贅沢だというのに。 「出来たか?」 素麺を湯がいている三条は額にうっすら汗をかきながら、少し渋い顔をした。 「ミックス粉使ってますし、失敗はないかと…。 でも、少し心配です。」 「ふぅん?」 お菓子なんて作らない長岡にはさっぱり分からないが、恋人が自分の為に作ってくれたものならなんでも食べたい。 「遥登が作ってくれたのなら、俺はそれだけで嬉しいよ。」 本音を吐くと、三条の纏う空気が変わった。 何時ものやわらかくあたたかいそれの方が似合っている。 「それから“コレ”も」 自分の首筋の赤くなっている所を見せ付け、にやりと口角を上げれば、みるみるうちに三条の顔に赤みが増す。 その一瞬に吹き零れそうになった鍋。 2人で慌ててツマミに手を伸ばし頭をぶつけた。 ぶつけた頭を押さえながらくすくす笑い合う。 渋い顔もそれはそれで珍しくて良いのだがこっちの方が断然好きだ。

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