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第907話

昼食を食べ終える頃焼き上がったスポンジを冷まし、間に果物を挟んで重ねてクリームをスプーンで塗り付けていく。 不格好だが気持ちは伝わってくれるだろうか。 苺と事前に買っておいた数字の蝋燭をたてると、長岡がやってきた。 「すげ。 蝋燭まで…おい、俺をいくつだと思ってんだよ。 27だぞ。」 「誕生日は幾つになっても誕生日です。 それに、俺がお祝いしたいんです。」 長岡は髪を掻き乱すと、とても嬉しそうにケーキを見ていた。 お菓子作りは弟の方が得意だ。 本当は洋菓子店に買いに行きたかったのだが、誕生日は家から出ない、遥登もな、と早々に引きこもりのお誘いを受け撃沈。 一緒にいれるのは嬉しいが、ケーキは必要だ。 誕生日は1年に1回しかない特別な日。 そんな日を彩るケーキが自分の手作りじゃ…と思ったが、スプーンに付いたクリームを掬い舐めとるその口角が上がってるのを見て安堵する。 「なんでチョコにしなかったんだ? 遥登チョコレートケーキ好きだろ。」 「正宗さんの誕生日ですよ? あ、チョコレートケーキの方が好きでしたか?」 「遥登の好きなもん食いてぇの。 まぁ、チョコも好きだけどな。」 「俺のって、今日の主役は正宗さんですよ。」 「だからだよ。 だから、遥登の好きなもん食いたいし遥登と過ごしたいんです。」 さも当然だと言う長岡に三条の尻尾がぶんぶんと振られる。 「遥登、折角だから写真撮ろうか。 ほらケーキ持って。」 自分に今出来たばかりのケーキを持たせ背後に回るとスマホを構える。 「良い顔してな。 いくぞ。」

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