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第908話

台所を覗くと、ケーキに蝋燭を突き刺した三条と目が合った。 そんなの気にするなと言ったのに、誕生日にはケーキがなくちゃいけないと三条の手作りケーキにありつけるのは正直嬉しい。 「すげ。 蝋燭…、おい、俺をいくつだと思ってんだよ。 27だぞ。」 「誕生日は幾つになっても誕生日です。 それに、俺がお祝いしたいんです。」 その笑顔が自分に向いただけで、すごくしあわせだと言うのに。 付き合えただけで、隣にいれるだけで十分過ぎるのに。 三条は知らない。 真っ直ぐな髪を掻き乱すと、綺麗な目がやわらかく弧を描いた。 この顔が見れるだけで十分だ。 「なんでチョコにしなかったんだ? 遥登チョコレートケーキ好きだろ。」 「正宗さんの誕生日ですよ? あ、チョコレートケーキの方が好きでしたか?」 「遥登の好きなもん食いてぇの。 まぁ、チョコも好きだけどな。」 「俺のって、今日の主役は正宗さんですよ。」 「だからだよ。 だから、遥登の好きなもん食いたいし遥登と過ごしたいんです。」 この子の好きなものをもっと知りたい。 とびきりの笑顔が見たい。 嬉しくてぶんぶんと尻尾を振っている犬の様な顔をする遥登が愛しくてたまらない。 「遥登、折角だから写真撮ろうか。 ほらケーキ持って」 長岡は三条の背後に回ると、ケーキもとびきりの笑顔も入るようにスマホを構える。 「良い顔してな。 いくぞ。」

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