909 / 1273

第909話

本当に今日は傍から離さないつもりらしい。 長い脚の間に閉じ込められじっと本を読んでいると、時々髪を梳かれる。 俺の髪の何が良いのか正宗さんはよく触る。 癖なんだと思うけど、自分のは触らない。 片手で本読みながら器用に触るよな 俺も気持ち良いし、嬉しいんだけど 続きの文字をなぞり時間も音も忘れていると、後ろからパタンと空気の挟まる音がした。 読み途中の本だったから読み終わったのだろうか。 「ところで」 「?」 突然の接続詞。 後ろを振り返ると、三条は小首を傾げる。 「なんでスクールバッグ持ってきてんだ?」 「それは…、もう1泊…」 「へぇ? 男の部屋から登校か。 やるな、優等生。」 「やましい意味じゃ…っ。 お邪魔でしたら帰ります…。 あと、俺は優等生じゃありません…。」 そんな褒められた人間ではない。 今日は勉強したくないと思う日もあるし、実際しない日だってある。 ゲームも好きだし友達と遊ぶのも好き。 恋人と一緒にいる時間だって必要だ。 そもそも優劣を付けたり付けられたりするのは気分が良いものではない。 例え自分が優だとしても。 「イケナイ先生に捕まっただけです。」 何の気なしに口にした言葉に長岡は息をのんだ。 「…ほんと生意気になったよな。」 長岡は咳払いをすると何時もの顔に戻ってしまったが、良いものが見れた。 「成長期ですから。」 「親御さんに話してるなら泊まれば良い。 俺も嬉しい。」 「はいっ。 お世話になります。」 花を咲かすの三条の頭をわしゃわしゃと掻き回す長岡の耳が赤いのが、三条は嬉しかった。

ともだちにシェアしよう!