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第910話

調理スペースには綺麗な薄焼きたまごでくるまれたオムライスが2つ並んでいる。 中身はキチンライスでもピラフでもなく、ウインナーの入ったケチャップライス。 長岡の好きなもの。 「やべぇ、うまそ。」 「誕生日だから、たこさんウインナーも付けちゃいます。」 更に、足が6本のたこがオムライスの前に2つ並んだ。 「本当にいくつだと思ってんだよ。 こんなおじさんに、たこって。」 そう言いながら、長岡は眉尻を下げてクスクスと笑い嫌そうな素振りは微塵もない。 オムライスとたこさんウインナー、野菜スープにからあげ、亀田から貰った夏野菜で作った和風マリネと豪華なご馳走が出来た。 「正宗さんはおじさんじゃないです。 お兄さんです。 それに、誕生日は特別な日ですよ。 ウインナーも特別仕様です。」 ぽん、と頭を撫でる冷たい手がありがとうと伝えてくる。 へへっと笑って見せれば今度は掻き乱し、飯にしようと誘われる。 さっきから腹の虫がないているのが聴こえていたらしい。 出来た食事を持って席に着くと早々にケチャップを差し出された。 「大好きって書いてくれませんか。」 「え?」 どこのお店のサービスだと思いながらも、今日は長岡の誕生日だ。 「…特別、ですよ」 差し出されたケチャップを受け取り、長岡の分のオムライスに手を伸ばし書いていく。 ディスペンサーもなく辿々しい文字だが読めるだろう。 照れ隠しに自分の分にもかけようとすると待ったをかけられた。 「貸して」 長岡は三条からケチャップを受け取ると三条の分に文字を書く。 あ い し て る 「ははっ、顔真っ赤。」 「だって、……」 「冷める前に食いたいけど、食うの勿体無ぇな。」 書く前より書いた後、書いた後より書かれた今、顔がアツくて仕方がない。 だけど、きっと同じ気持ちなのだろう。 穏やかな長岡の笑顔に三条は隣にくっ付いて座った。 長岡の腕と三条の腕がぶつかり合う。 「俺は、熱いの早く食べられませんから。 …その、食べ頃になるまで」 「うん。 遥登が猫舌で良かった。」 穏やかな時間を共有し、隣に居る事が出来る喜びを噛み締める。

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