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第912話

無理矢理押し込まれた苺を嚥下するも味なんて分からない。 優しく名前を呼ばれゆっくりと腕を退かすと、後頭部に触れていた手がゆっくりと項を撫でて離れていった。 甘ったるい空気に溶けてしまいそうだ。 「遥登、食わせて。」 「え、なにを…ですか」 「ケーキ。 俺の為に作ってくれたんだろ。 遥登が食わせて。」 目を泳がせながらも頷く三条はケーキを掬おうとフォークを近付けるが、いきなりその手を掴まれ驚き隣を見上げた。 途端、ぞくりとするその人の顔に下っ腹が重くなる。 「間違えた。 “遥登”で食わせて」 「お、れ…で…」 声が震える。 期待か恐怖かなんて、そんなの解りきっている。 「そ、遥登で食いてぇ。 解んだろ。 食わせて、遥登。」 この1年半で教え込まされた身体は従順に動く。 クリームを口に運ぶと、今日の主役と向き合う。 肩に手を置き腰を上げ、顔を近付けていくと素直に開けてくれた口内へとそれを押し込むが上手くいかない。 口の中の体温で溶けどろどろのクリームを流し込む為に、顎に手を添え上向きにして重力の手助けを借りるとあっさりと上手くいった。 「ん、……おいし、ですか…」 「美味い。 もっと食いたい。」 また一口クリームを掬うと流し込む。 空気だけじゃなく口中が甘ったるくなった頃、次は苺が良いとお強請りされた。 さっきの事もあり、苺を口にするだけで心臓が痛い程打つ。 苺を銜えた姿は間抜けだろう。 それでも、三条は艶笑みを浮かべ待っている恋人の口元へと運ぶ。 「いただきます。」 まるで肉食動物みたいなキスに身体が震えた。

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