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第966話
寒露も過ぎ、衣更え以降期間も終了した。
長岡はスーツを冬物に変え、生徒達もジャケットを着ている。
本当にあっという間に時が過ぎていく。
目下に迫るは文化祭。
それが終われば3学年には楽しいイベントはない。
「ここ、前後を逆にした方が流れが良いな。
それから、ここ。
これは良いな。」
白い原稿用紙の上を赤いインクがなぞる。
それを目の前に座る生徒はじっと見ていた。
「疲れたか?」
「いえ。
全然疲れてないです。」
「少し待ってろ。」
疲れた顔をして疲れてないなんて事はないだろう。
かれこれ2時間近く根を詰めていたから休憩を挟んだ方が良さそうだ。
長岡が立ち上がると関節から空気の潰れる音がした。
三条を進路指導室に残し階段を降りる。
玄関前の自販機もあたたかいものが増えた。
あたたかなレモネードを2つ手に進路指導室に戻ると真っ直ぐな髪が動いた。
目が合うとそのまま長岡が席に着くまで離れない。
そんな顔をされると教師の仮面が剥がれそうになる。
「どうぞ。
少し休憩です。」
「ありがとうございます。
あの、お金…」
「頑張ってるご褒美です。」
ポケットに伸びた手を制すると、でも…と言いたげな顔をしたが、な?と声をかけると素直に頷いた。
パキッとキャップを開けると甘酸っぱい液体を嚥下する。
風邪予防も兼ねてレモネードにしたが、久し振りに飲むと美味い。
自分が飲んだ事でやっと口を付けた。
三条も美味しそうに飲んでいる。
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