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第988話
静かな進路指導室に電波時計の秒針の音がやけに大きく響いていた。
『あれはセクハラです』
『スキンシップですよ』
差し出されたメモ画面に長岡を見る。
小首を傾げる長岡は、それすら様になっていてつい許してしまいそうになるがあの接触はひやひやした。
文化祭準備で時間は短いが毎日時間を作ってくれる長岡には感謝している。
感謝しているが、あの時は本当にバレてしまうのではないかと変な汗をかいた。
横の廊下を歩く人の気配と足音。
目の前の友人。
それなのに臀部に触れる冷たくて大きな手に下っ腹が疼く。
「三条もソースとマヨネーズ使うだろ。」
「あ、うん。
ありがとう」
触れていた感触を残す様に撫でながらゆっくりと手が離れていく。
カーディガンの袖を握りながら必死に取り繕ったが友人の前で発情した顔は晒してないだろうか。
明日も顔を会わせるのに気まずい。
『半勃ちだったのに』
手を伸ばし画面を覆うと伏し目がちに笑う長岡が余裕たっぷりで悔しい。
「はい、赤ペン終わりました。
自分の考えをきちんと言葉に出来てるし、前教えた事も生きてるし良いですね。
明日は過去問でもしてみますか。」
ぴらりと原稿用紙を返してくる教師の顔をした恋人。
自分の手の平に唇をくっ付けると、次にその平で長岡の口を塞いだ。
『仕返しです』
もう帰宅時間が迫る中、手を出せないのを見越して間接キスを仕掛けた。
細やかな仕返しだが三条には精一杯の仕返しだ。
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