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第995話
「おー、賑わってんな。」
担任の登場に体育館中が色めきたった。
若い女性の声に三条も視線を出入口に向ける。
身長だけでも目を引くその人にちびっこも興味深々。
だが、何時もと変わらずそんなの何処吹く風の長岡は一直線にA組の屋台へとやって来た。
「お疲れ。
あぁ、三条の弟と、お友達ですか。
こんにちは。
はしまき食べましたか?」
「こんにちは。
今、焼いてもらってます。」
長岡は屈んで優登に目線を合わせるとにっこりと笑顔を向ける。
そしてまじまじと顔を見た。
確かによく見ると兄より母親に似ているか。
多感な年頃の弟、挨拶をすればきちんと返してくれるところは兄によく似ている。
だけど、この子には発情しない。
兄ではないと。
なんて思ってしまうのは最近の忙しさを理由に恋人と濃厚な接触が出来ていないからだろう。
「そうだ、これ良かったらどうぞ。
ドーナツの引き換え券です。
1枚しかなくて申し訳ないんですが、半分こしてください。」
「先生、俺が買いますから。
あの…」
「相川先生から貰ったんだよ。
気にすんな。
場所は、あそこです。
見えますか?」
「良いんですか…?
あの、ありがとうございます。」
心配気な兄に視線をやると微かに口角を上げた。
プライベートの長岡をよく知っている三条なら読み取れる位微かに。
「優登、一樹、焼けたぞー。
ほら、熱いから気を付けてな。」
田上に呼ばれ一樹と向かう途中、優登は長岡の元へ引き返し声を掛けた。
「あの、兄の事よろしくお願いします。」
「え、あぁ。
任せてください。」
にっこりと笑顔を見せると深く頭を下げる。
田上の方へと歩く後ろ姿に、確かに恋人と血が繋がっているのだと確信した。
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