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第997話

いよいよ推薦迄1週間を切った。 放課後の小論指導も面接練習も大詰めだ。 「うん、格好良い。」 面接指導用プリントの例の様に手櫛で整えながら前髪を流し額と耳を出すと、向かいに座る長岡は頷いた。 「ここ、跳ねてる。」 え、うわ…っ 近い…っ 冷たくて大きな手が伸びてきて、耳に引っ掛かって跳ねてしまった髪を整える。 「ん、イケメンですよ。 なに顔赤くしてるんですか。」 耳に触れた冷たさに恋人の体温を思い出してしまう。 手で口元を隠しながら口籠っていると、腰を上げたままの長岡の手がまた耳元に伸びてきた。 「そんな顔してるとバレんぞ。」 「…っ」 髪を整え直すフリをしてぼそ…っと呟くと、くすくすと楽しそうに笑って腰をおろした長岡には敵わない。 学校でもプレイとして接触してくる。 心臓に悪いったらないが、楽しそうな長岡を見られるのは正直嬉しい。 すっかり2人の空気になった進路指導室に近付く足音。 2人が教師と生徒の顔を取り繕うと、廊下へと続く扉がノックなしに開いた。 「しつれーしまーす!」 「よっ! 三条。 おつかれー。」 「田上、吉田…どうした?」 2人の空気はすぐに教師と生徒のものへと戻ってしまう。 がさっと紙袋を手渡され、そのあたたかさに三条は中を覗いた。 「頑張ってる三条に差し入れ。 長岡もどうぞ。」 「たい焼き! しかもまだあったかい。」 紙袋の中を覗いて満面の笑みを見せる三条に更に友人は紙袋を手渡した。 「これも…? …牛カツバーガー!」 2人に向き直る三条は目を輝かせている。 確かにこれは嬉しい差し入れだ。 友人2人は満足そうに三条も話はじめた。 「定番だけど、やっぱカツだろ。」 「あと、疲れた頭には甘い物ってな。 三条、そのたい焼きの豆乳クリーム好きだろ。 焼き立て買ってきた。」 「ありがとう。」 満面の笑みにさっきの色っぽさはないが、子供らしいその笑顔に指導室が明るくなった。 3人組は3人揃うと本当に良い顔で笑う。

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