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第1014話
「遥登、呪いのかけ方教えてやろうか。」
三条は本から顔を上げ、きょとんと長岡を見詰める。
突然の呪い発言。
この科学の進歩が目まぐるしい時代に非科学的な呪い。
というより、恋人は呪いの類いを信じているのだろうか。
「呪いって、黒魔術とかの…ですか?」
「んー、近からず遠からずってやつか。」
なんとも歯切れの悪い解答だ。
担任の採点じゃバツを食らう。
でも、興味が無いのかと問われればなくはない。
「教えてください。」
「ん。
簡単だ。
俺な、鈴蘭の花が好きなんだ。」
「鈴蘭、ですか。」
「そう。
鈴蘭。」
三条は鈴蘭を想像する。
白くて小さくて可憐で可愛らしいあの花。
保育園のクラス呼びが花だった三条はすぐにその形容を思い浮かべた。
「遥登はもう俺の呪いにかかりました。
気分は?」
「え?
えっと…自覚は、ありません。」
長岡は立ち上がると本棚を漁り1冊の本を引っ張り出す。
随分と増えた本はそろそろ雪崩を起こしそうだ。
「ほら、此処読んでみ。」
たった5行の綺麗な掌編小説。
美しい呪い。
「とても、綺麗な呪いですね。」
「俺は鈴蘭が好きだ。
遥登は?」
「…正宗さん」
「ん?」
「正宗さんです。」
名前を呼ばれる度に思い出せば良いと願う。
「そりゃ大層な呪いだ。」
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