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第1015話

「はい、終わり。」 長岡はそう言うと乾かしたばかりの髪にぽん、と触れた。 自分の事は自分で出来るのに、自分が乾かすと譲らない恋人は何時もこうして乾かしてくれる。 「ありがとうございます。」 「ん、どういたしまして。」 ドライヤーを片付ける長岡に向き合いじっとその手元を見る。 細いけれど節だった男の手。 自分の枝みたいなそれとは全然違う。 「どうした。 魅取れんなら顔にしてくれよ。」 「顔は改めてだと緊張します。」 「まだ緊張すんのかよ。 いい加減慣れろって。」 手櫛で髪を整えると長岡は格好良いと褒めてくれた。 格好良いのは目の前で微笑む長岡の方だ。 ずっと前に思っていた作り笑いのイメージはとうに消え、この笑顔が見慣れたものになった。 こっちの笑顔の方がずっと似合っている。 ふにゃっと表情を緩めた三条に長岡も穏やかな表情を浮かべた。 少なくとも俺は此方の方が好きだ。 「アイス食うか?」 「正宗さんと食べたいので待ってます。」 「じゃあ、俺も風呂行ってくるか。 良い子に待てしててな。」 「はい。 あ、ちゃんとあったまってきてください。」 「わかったよ。」 長岡はもう1度頭にぽんと触れるとドライヤーを持って浴室へと向う背中を見送った。

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