1015 / 1273
第1015話
「はい、終わり。」
長岡はそう言うと乾かしたばかりの髪にぽん、と触れた。
自分の事は自分で出来るのに、自分が乾かすと譲らない恋人は何時もこうして乾かしてくれる。
「ありがとうございます。」
「ん、どういたしまして。」
ドライヤーを片付ける長岡に向き合いじっとその手元を見る。
細いけれど節だった男の手。
自分の枝みたいなそれとは全然違う。
「どうした。
魅取れんなら顔にしてくれよ。」
「顔は改めてだと緊張します。」
「まだ緊張すんのかよ。
いい加減慣れろって。」
手櫛で髪を整えると長岡は格好良いと褒めてくれた。
格好良いのは目の前で微笑む長岡の方だ。
ずっと前に思っていた作り笑いのイメージはとうに消え、この笑顔が見慣れたものになった。
こっちの笑顔の方がずっと似合っている。
ふにゃっと表情を緩めた三条に長岡も穏やかな表情を浮かべた。
少なくとも俺は此方の方が好きだ。
「アイス食うか?」
「正宗さんと食べたいので待ってます。」
「じゃあ、俺も風呂行ってくるか。
良い子に待てしててな。」
「はい。
あ、ちゃんとあったまってきてください。」
「わかったよ。」
長岡はもう1度頭にぽんと触れるとドライヤーを持って浴室へと向う背中を見送った。
ともだちにシェアしよう!