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第1030話

同じ様に参考書に目を通す学生に溶け込み、電車に揺られる。 くぁ…と欠伸を噛み殺すと、目の前の男子生徒も欠伸をした。 あたたかな車内と心地よい揺れに暫しの間身を任せていると、次の停車駅を読み上げる。 地元駅に到着すると参考書を鞄にしまい、足早に自宅を目指した。 あちこちの家からあたたかな光が漏れ、夕餉のにおいが自宅をより恋しくさせる。 さむ 腹も減った 早く家帰りたい たったっと短くなる足音が響く電灯も疎らな田舎道。 道なりにまっすぐ進み角を右に曲がる。 同じく明りの溢れる自宅から夕餉のにおいが漂っていた。 今日は母親の夕食だ。 「ただいまー。」 「あ、遥登おかえり。 大学から手紙届いてるよ。」 靴を脱いでいるとリビングから母が顔を出した。 “大学”の言葉に三条の、肩に力が入る。 鞄を握り直すとそれを受け取った。 三條遙登 親展だ。 なんだかとても軽い気がする。 まるで用紙なんて入ってないみたいに。 「ありがとう。」 手洗いうがいもせずに、スクールバックをソファの上に置くと封筒の端を鋏で切った。 中から真っ白な紙を取り出す。 母親とそわそわと落ち着きのない弟に見守られ、その用紙を開いた。

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